「ふしぎのくに」へ迷いこむ ――「セシャトのWeb小説文庫 出張 ふしぎのくに」参加作

セシャトのWeb小説文庫の主人公である、古書店「ふしぎのくに」店主セシャトさんのご企画「セシャトのWeb小説文庫 出張 ふしぎのくに」に参加いたしました。

この記事では、「セシャトのWeb小説文庫」について軽く紹介させていただいた後、私が書いた、自作「家事力0の女魔術師が口の悪い使用人を雇ったところ、家は綺麗になったけれど何だかドキドキするようです」とのコラボ小説を掲載しております。

感想など、気軽にコメントしていただけましたら嬉しいです。

企画詳細につきましては、下のセシャトさんの呟きをご覧ください。

 

「セシャトのWeb小説文庫」とは

HoliHo / Pixabay

「セシャトのWeb小説文庫」は、作中の人物が実在のウェブ小説を読み、紹介するという、面白い試みをなさっている小説です。

一般的なウェブ小説の紹介方法は、感想やレビューを書くという形態でしょう。
しかしながらこの小説では、作中のストーリーの中で、セシャトさんを中心とした登場人物達がウェブ小説を読んでいき、その感想などを言い合っています。

こういう形式での紹介方法もあるのだという新感覚、ぜひ体験なさってみてください。

小説家になろう、カクヨム、エブリスタで掲載されており、URLはそれぞれ以下の通りです。
なお、更新は小説家になろうのものが先行している模様です。

小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n0469em/
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054884804994
エブリスタ:https://estar.jp/_novel_view?w=24938046

 

「セシャトのWeb小説文庫 出張 ふしぎのくに」参加作

それでは、「セシャトのWeb小説文庫」と拙作「家事力0の女魔術師が口の悪い使用人を雇ったところ、家は綺麗になったけれど何だかドキドキするようです」のコラボ小説をお楽しみくださいませ。

文字数は2,699字。
ジャンルは、一時的な異世界転移とでも申しましょうか。
傾向はほのぼので、安心安全の全年齢対象です。

 

「ふしぎのくに」へ迷いこむ

 
 ギルバートはそろそろ昼食の準備をしてくれている頃でしょうか。
 街の大通りを帰路につきながら、考えてしまうのは彼のこと。

 しかし、私は魔術師です。たとえ私服でのお出かけ中であっても、少しくらいのぼせていても奇妙な気配には敏感なのです。
 足を止めて、大通りに面する店をじっと見ます。

 隣り合って並ぶ、甘い香りがする香水屋と、若い女性向けの華やかな衣服を扱う服屋。
 その合間に隙間なんてなかったはずですのに、今は一メートル弱ほど店と店の間が離れています。

 その隙間を埋めるのは、薄茶色の壁と、普通の大きさの茶色い扉。
 閉じられた扉からは奇妙な魔力も漏れてきています。

 道行く人々は誰も異変に気付いていないのか、不思議な扉に注意を向ける人はいません。

 私はこの街を守るために雇われた魔術師です。魔術が関与している疑いがある事案に対処するのが私の役目。

 それに、妙な気配はしますが、嫌な感じはしません。きっと大丈夫です。

 近付き、扉を押してみますと、小さな音を立てながらあっけなく開きました。
 一歩、二歩と中に入ります。

 静かな雰囲気の空間内には、いくつもの棚に並べられた本、本、本。
 私よりも背丈の高い本棚に、大量の本が置いてあります。
 本屋でしょうか。

「いらっしゃいませ」

 穏やかな若い女性の声。
 店の人なのでしょう、本棚の向こうから妙齢の女性が姿を現しました。銀色の長髪と褐色の肌が綺麗な人。

 思わず自分の、肩につく程度で切っている赤茶色の髪を指で触ってしまいます。私もこの人のように美しければ……いえ、そんなことを考えても仕方ありません。

 本屋の人に意識を戻しますと、彼女も何やら驚いているようです。私を見たまま、まつげの長い目をパチパチと瞬かせています。

 沈黙が、本の香りのする店内に立ちこめました。

「あの……」

 会話は得意ではありませんが、勇気を出して話しかけます。私が入ってきたのですから、私から切り出すべきです。

「その……あの……素敵な本、ですね」

 私は何を言っているのでしょうか。確かに素敵な本ですが。

 どの本も見ただけで、高い製本技術により頑丈かつ立派に作られていることがうかがえます。小さな本が、統一された大きさで、いくつもいくつも並んでいます。聞いたこともない技術です。
 本が沈黙の中で訴えかけてきます。私は不思議な店に迷いこんでしまったのだと。

「ありがとうございます!」

 銀髪の女性はにこりと微笑んでくれました。笑顔も綺麗な方です。

「改めまして、古書店『ふしぎのくに』へようこそいらっしゃいました。私は店主のセシャトです。何か本をお探しですか?」

 不思議の国。名は体を表すという言葉通りの店名みたいです。

「ええと……ご丁寧にありがとうございます。私はミレーネと申します。不思議な魔力を貴店から感じまして、その、魔術書でもあるのかと」

「魔術書?」

 きょとんとしたセシャトさんの様子と、並べられた本から魔力の気配を感じないことから、どうやら場違いなことを述べてしまったと分かりました。
 顔が熱くなり、うつむいてしまいます。

「ご、ごめんなさい」

「……ミレーネさんは、本が好きなのですか?」

 穏やかな声でした。そっとセシャトさんの顔色をうかがいますと、優しく微笑んでくれています。
 少しだけ気持ちが落ち着きました。

「は、はい。本を読み、新しい知識や知見を得ることはとても好ましいことです」

「素敵ですね! どんな本を読まれるのです?」

「基本的には学術書です。でも物語も好きです。物語の中にも様々な含蓄がありますし、何より読んでいて楽しいですから」

「まあ! ミレーネさんは物語もお好きなんですね。どんな物語がお好みですか?」

 あら。穏やかな方かと思っていましたが、好きなことに関しては前に出られる性格なのでしょうか。
 セシャトさんは私の方へ一歩歩み寄り、私の答えを待っています。

「魔法使いがその魔術の腕と英知で困難を解決する物語には、幼い頃から憧れてきました」

「超常的な力と研ぎ澄まされた知恵。時には正面から、時には奇をもって問題を解きほぐす。そんな物語でしょうか」

「はい。知は力であると語りかけてくれ、勉強する上でどれだけ励みになりましたか」

 幼かった日々。伝説と謳われる魔法使いに憧れ、ひたすら魔術を学んでいました。

「良い思い出をお持ちなのですね」

「はい」

 微笑むセシャトさんに、私も微笑みを返してみます。上手く笑えているかは分かりませんが、私の気持ちが伝わっていれば嬉しいです。

「セシャトさんも、物語が好きなのですか?」

「ええ、私もです。ここに置いてある物語達も好きですが、Web小説も大好きで」

「うぇぶ小説?」

 何でしょうか、それは。小説の種類のようですが、初めて聞きました。

「ご覧になりますか? せっかくですから、奥の母屋で。お茶とお菓子もお出ししますよ。フルーツ味のゼリー菓子、美味しいのを買ってきたんです」

 明るい顔で招待をしてくれたセシャトさん。興味が惹かれます。しかし――。

「ありがとうございます。ですが、家で食事を用意して待ってくれている人がいるのです。残念ですが長居はできません」

「そうですか」

 セシャトさんをややしょんぼりとさせてしまいました。
 とても良い方のように見えます。これが偽りの姿ということもないでしょう。

 母屋があるらしき奥からはほんのりと奇妙な気配を感じますが、悪いものである感覚はしません。

 ……帰宅予定時刻をいくらか過ぎてしまいました。ギルバートが心配しているかもしれません。あるいは、料理が冷めると怒っているかも。

「申し訳ありませんが、私はそろそろおいとまします。お話ししてくださり、ありがとうございました」

「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」

 やはり美しい笑顔を浮かべたセシャトさんに見送られながら、店の出入り口の扉を開けました。

 店の外に出て、漂ってきたのは隣の香水屋からの香り。鼻をやられました。くしゃみが出ます。

 それから後ろを振り向くと、そこに扉はありませんでした。

 いつも通り、隣り合う店は隙間なくくっついています。

「刹那のことでしたか」

 セシャトさんの不思議な本屋へは、もう行けないでしょうか。
 おそらく無理でしょう。
 この場所には何の痕跡も残っていません。きっと、偶然が作用した、一時的な現象。

 銀髪の素敵な本屋の主のことを考えながら、家への帰路を歩き出します。

 理性的には確率がごく低いことくらい分かりますが、何となく、また会えるかもしれないと思います。
 物語を愛好する者の仲は、容易に切れるものではありませんから。

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